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影を呑んだ少女

 

影を呑んだ少女

影を呑んだ少女

 

 ピューリタンの村で母と暮らすメイクピース。彼女が悪夢におびえるのに、母はそれをあおるように夜の墓地で寝て、襲ってくる悪夢の幽霊と戦えと迫る。父のことは何も知らないが、母がもらした「グライスヘイズ」という言葉を漏心にとめる。そしてある日、母と商売のためでかけたロンドンは王と議会の対立による混乱の中にあった。メイクピースのせいで小競り合いに飲み込まれ母は死亡。彼女はグライズヘイズに引き取られることになるが、その直前、死んだクマの霊を取り入れてしまっていた。彼女の父の一族は死んだ人間の霊を受け入れることができる能力があったのだ。彼女は屋敷で台所の下働きにされるが、微妙に優遇も受け、そこで同じ庶子のジェイムズと仲良くなる。屋敷の当主は、フェルモット家の先祖代々の魂を受け継ぎ、それによって能力を高め地位を向上させていた。先祖の魂を入れる器のスペア、それが自分たちであると知り、二人は逃げる計画を練るが、機会はなかなか訪れない。そんな中、ジェイムズはメイクピースと逃げるよりも跡継ぎの青年シモンドと共に従軍することを選ぶが、なんとシモンドは議会派に寝返り、彼が率いた軍隊は壊滅、ジェイムズは生還するが戦いで死んだ一族の魂に体を乗っ取られ、その意識のかけらすら見えない状態で戻ってきた。折から当主の命が危うくなり、メイクピースも器にされそうになる。だが絆が生まれたクマの霊の力で反撃して脱出、霊がついた人間を脳手術で助けたという医師を探しにロンドンへ向かった。ある時は王党派、ある時は議会派に身を寄せつつ、王党派の医師と議会派の兵士、さらには長年フェルモット家の手先となっていた女性モーガンの魂を取り込むことになる。1639年に勃発したピューリタン革命の時代を背景に、過去の知識の蓄積に疑いを抱かないフェルモット家と、世界が今変わりつつあることを感じるメイクピースの新しい価値観の対立は、変化が激しい現代社会とオーバーラップして見える。ともかく自分を保って生きようとするメイクピースの姿がとても魅力的。