児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

南西の風やや強く

 

南西の風やや強く

南西の風やや強く

 

 完璧な父親は、有名進学校から東大に入り学生中から起業して、今も会社のトップで働いている。叱られたりしないけど、眼が笑っていなくていつも怖い。自分も父と同じ学校を受験しなくてはというプレッシャーにちょっとメゲている伊吹。12歳、15歳、18歳と変化の年に合わせるように伊吹の姿を描く。夜の神社で偶然出会った多朗は、母子家庭。母親は小さなスナックをやっているが裕福ではない。怖いと思っていた多朗が意外と話しやすい人物で、思いがけない夜の散歩をする中で受験を辞める決意をする12歳。高校受験を控え、クラスに気になる女の子由貴ができる伊吹は、放送部でちょっとした原稿を書いて好評を得てうれしい。常に最強と思っていた父親が癌になったこと、多朗がスナック勤めの母親の中に見える女がいやで祖父母がいる北海道に行くときかされる15歳。そして大学受験を前にして由貴といい感じになれた伊吹。だが、由貴は糖尿病を発症。生涯病気と闘わなくてはならなくなったことで激しく動揺し、二人の仲はこわれた。折から父の癌も再発。父親を守ることを初めて伊吹は意識する18歳。正直、伊吹すごいなと思った。12歳から18歳は人間関係が激しく変わる時期。友人関係や好きな子が変わっても不思議はないのになかなか一途。この物語で一番心惹かれたのは、伊吹が由貴を慰めようとして逆に由貴にキレられてしまうところ。自己嫌悪に陥っている伊吹に対し、多朗はキレることができる相手がいて由貴は良かったというところ。そう、相手にたいする安心がなければキレることもできないからね。ちょっとまじめで自信がない子にオススメ。