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半分のさつまいも

 

半分のさつまいも (くもんの児童文学)

半分のさつまいも (くもんの児童文学)

 

 東京大空襲ですぐ上の兄以外の全ての家族を失った香葉子は、戦後親戚の家を転々とすることになる。どの家でも生きることに必死で余裕がない。石川県へと転勤した海軍省の叔母はやさしかったが、敗戦で叔父の仕事がなくなり、中野の叔母のところに身を寄せることになる。バラックでぎりぎりの生活を強いられる叔母はともすればヒステリックになっているし、後日、香葉子の実家の土地など財産を処分したことがわかる。抑えて、かつ許した感じで書いてはいるが、これはかなりうらむ気持ちもあったと思う。ただ、だからといって豪勢な暮らしをしているわけでもなく、やはりギリギリの暮らしだったのだろう。学校に通わせてもらえるということで小学校を卒業してすぐに住み込み女中の仕事をするが、そこの夫婦仲の亀裂のためそこも出て、昔避暑に行った先の記憶のなつかしさにその地を訪ねるも、今となってはそこでも女中奉公をするしかない。坂上のおばを頼り、そこに住みながら事務の仕事をし、やっと兄を見つけて兄妹で暮らすようになるが、兄の友人が泊まりこむようになってきた。せっぱつまった末に、生家をひいきにしてくれた落語家の金馬師匠を訪ねた。思いがけなくそこで親身になってくれた金馬師匠の元に引き取られ、兄にも竿師の修行の道をつけてくれた。結果的に、やっとここで落ち着いた生活を手に入れることができる。過酷な人生であるが、その彼女のまわりには、親戚もない浮浪児の子どももおり、さらに元の同級生が父親と二人だけで生き残り、気力を無くして酒浸りの父を助けるために口紅をつけパンパンとしか思えないようすで仕事をしているのにも出合う(せいぜい13~4歳!)。戦争は敗戦で終わってはいない。生き延びる戦いにどう向かい合うのか、特に子どもたちは! ということを忘れてはいけない。