児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

虔十公園林

 

縄帯をしめて歩きながらいつも笑っている虔十をみんなはばかにします。だから虔十は笑わないふりをするようになりましたが、やっぱりうれしくなってしまいます。ある日、虔十は家の後ろの空き地に杉を植えたいと言いだします。お兄さんはそれより田うちをしろ、と言いますが、日ごろ何もねだらない虔十の願いをお父さんはきいてやります。こんなところで木は育たないとバカにされながらも、杉はすくすくと育ち、近所の子どもたちの遊び場になりました。虔十がチフスで早く死んでしまった後も、両親は虔十の形見として、開発が進むまちの中でその杉林を手放しませんでした。ある日、アメリカで博士になったそのまちの出身者が、講演のために帰ってきてその林を見ます。そして子どもたちのために、虔十公園林として整備して残したという物語。虔十は知的な障がいがあるかとも思われるが、両親に愛され、いつも笑ってしまうほどの幸せの中で、自分がしたいことをちゃんとできて、それが子どもたちに喜ばれる幸せな人生を送ったとも思う。優れた人間ではなく、片隅の人間のささやかな行為が、みんなを幸せにするという賢治の思いが感じられるが、それが理念ではなく、大きな喜びとして感じられるのがさすが!