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ゆりの木荘の子どもたち(2021年課題図書ゆりの木荘の子どもたち(2021年課題図書 小学校中学年) 小学校中学年)

 

 100年以上前に建てられたゆりの木荘。今は改修されて有料老人ホームになっています。ところが、昔のゆりの木荘から残された立派な柱時計が急に逆に回り始め、きがついたら昭和16年8月3日というカレンダーがかかっていて、入所していたお年寄りたちはみんな子どもに、しかも昭和16年の時の年齢の子どもに戻っていました。でもなぜこんなことが? そのうちサクラさんが、この家を知っている気がすると言い出します。そして、子どものころ夏休みに遊びに来てやはり遊びに来ていたカズミちゃんと共に、ここでふしぎな女の子と出会いある約束をしたことを思い出しました。キイワードは昭和16年。そう、この年の12月に太平洋戦争がはじまり、サクラさんはここに戻ることなく過ごして来たのです。カズミちゃんとあったのもこの16年が最後で、カズミちゃんは広島の家に帰って行きその後はわからないとさりげなく書いてあるのを見ると、ヒロシマというキイワードから正直悲劇も連想しますが、あえてそのことを追って書いてないところがさすがです。登場する子どもになったおばあさんやおじいさんたちが生き生きしていて、元の時間に戻ってからも元気なところに勇気づけられます。失われた記憶を取り戻し、謎が解けるか! 楽しく読み進められる物語。