著者の研究者としての自伝的な内容。京都大で大学院を修了し、東大で名誉教授にまでなりさまざまな要職を歴任するという経歴なのだが、できすぎじゃないのとそれに反感を感じることもなく読み進められたのは著者の感覚がバランスが取れているからではないかと感じた。自分がしてみたかった研究への夢、偶然のチャンスに助けられた若い日、特に若手時代に直面した苦労を語るだけでなく、現在でも問題が残っていることも率直に述べ、さらに現在は研究者というよりいろいろな組織に携わっている中で、それの解決方法を提案しているので、とても現実的な人間という印象が残る。基礎研究の重要さ、軍事研究に手を染めてはいけないという当然のことも、当然として発言している。コロナの中で、感染者はアメリカやヨーロッパに比べたら少ないのに医療が破綻しそうになったり、ワクチンが遅れているようすを見ていると、政治に科学が振り回されているようで怖くなるが、私たちが、国民としてそれをきちんと監視することで科学者の科学的な知見を応援したいと思った。