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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

ベン・イェダフダ家に生まれて

 

 地味な造本だが、読み始めると一気に読んでしまった。イスラエルが建国された時、民族の共通言語が必要だとしてヘブライ語を現代によみがえらせようとしたエリエゼル・ベン・イェフェダ。彼の長男ベン・ツィオンは、ヘブライ語だけで育てるという方針の下で、家の中だけで育てられる。大きくなるにつれて、なぜ友だちと遊べず、外に出てはいけないのか苦しむベン・ツィオン。聖書の言葉であるヘブライ語を俗語にするなど冒涜だという周囲のラビからの攻撃。母デボラは懸命に夫を支えながら息子に愛を注いでくれたが、激しい信念に生きつつも、日常生活ではなにもできない夫を、自分や子どもはパンだけでも夫には肉を食べさせて耐える貧しい生活と度重なる出産に心身をすり減らし、若くして亡くなってしまう。他の子と遊びたくて家を抜け出し、言葉が通じないことでバカにされ、ショックを受けるベン・ツィオン。学校に上がることでやっと他の子どもたちの中に入るが、特異な父の存在のため、たびたびトラブルに見舞われる。勝気で、優秀なベン・ツィオン自身もともすれば暴走しがち! エボラ亡き後、彼女の妹ヘムダが二度目の母となり一家を支えてくれ、物語はベン・ツィオンが父の思いを受け止めフランス留学に旅立つところで終わる。偉大なことをなしとげはしたんだろうけど、やっぱこの父親、異常。少なくてもそんなに学問に献身しているなら、ここまで妻を妊娠させない注意位すべきでは? 一人で突っ走らず、複数の協力者の共同育児位できなかったのか、とか思わずいろいろ思ってしまった。ユダヤ家父長制の傲慢さかも。いろいろ思わされるが、迫力ある作品であることは間違いない。