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マレスケの虹

 

 ハワイに住む日系2世のマレスケの名前は、おじいちゃんが天皇に殉じて死んだ乃木希典という人から名前を取ったという。でもマレスケは、マレと呼ばれるが好きだし、そんな人間に自分は関係ないと思っている。貧乏な小作人の三男からハワイに移住。苦労しながらお金をためて店を開いたおじいちゃんは大和魂を忘れるなというけどあまりピンとこない。父さんが死んだあと、母さんは日本に帰ってしまい、にいちゃんとねえちゃん、マレを育ててくれたのはじいちゃんだ。だが、日米開戦の噂が広がり、なんとなく落ち着かない。そしてハールハーバーが爆撃を受け、一気に日本人は敵視されるようになった。ハワイは日系人があまりに多いため、収容所行きは免れるが、敵意を向けられマレは自分はアメリカ人ではないのか?と自問自答する。一旗揚げて日本に帰ることを考え、日本語教育にこだわるじいちゃんのような一世とちがい、生まれた時からアメリカ国籍のあるマレはアメリカ人のつもりだったが、アメリカが拒否するのだ。フラを踊るのが大好きなやさしい兄は、仲間と一緒に兵役に志願してもなかなか受け入れてもらえない。だが、ついに認められて戦場に向かっていった。戦争が続いていたら、自分も志願するのか? ひょっとすると戦う相手は自分のいとこかもしれない。兄は民主主義を守るために戦場にいったのか? いや、自分を拒否するアメリカの差別の壁に向かって戦ったのだ、とマレは思う。戦争は究極の所殺し合い、ハワイの日系人という立場の中でよりその本質が生々しく見える。タイトルはノーレイン、ノーレインボウというマレの先生の言葉から。雨がふらなければ虹はでない。過酷な状況に直面しながらも自分の道を見つけていこうと考えるマレの姿が心に残る。