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戦火と死の島に生きる

 

 サイパン玉砕の時、手榴弾で自決を図るが、大けがをおいつつ生還した著者静子によるノンフィクション。南洋興発会社の嘘の写真にだまされて、サイパンの隣にある無人のテニヤン島の開拓農民となった著者の家族。さまざまな苦労を重ねながら、やっと自分の土地も手に入るが、戦争が始まり、長兄は兵隊にとられる。学校を卒業した静子はサイパンの会社に勤めるが、戦争が悪化。空襲でみんなが逃げる中、看護婦として志願して野戦病院へと向かった。若い女の子のできる仕事ではないと言われるが、食い下がって懸命に看護に当たるが、徐々に薬も尽き、傷口のウジをつまみだすしか術もなくなる。水を運び、最後の言葉を聞き、懸命に働く静子。玉砕命令が出る中、隊長は重傷者と共に静子を何とか逃がそうとするが、拒否して自決を試みる。助かったのちも、収容所から病院へ働きにいって人が嫌がる便器の始末を率先して行った。だが、黒人兵に目をつけられ、拒否したことをうらまれて軍事裁判にかけられる。なんとか軽い罪で済み、結婚し、帰国するが、過酷な経験の後、死んだと思った姉や両親と再会がかない、やっとおちついた生活を手に入れる。

それにしてもあくどい南洋の植民地政策、そして降伏させようとするのに自決してしまう日本人へのアメリカ人の戸惑い、敗戦によりまともな裁判が受けられない敗戦国の人間となった屈辱などいずれもハードなエピソード満載。静子はどこまでもまっすぐに描かれているが、こうしたまっすぐさこそ自決につながってしまったことには、著者は気づいてない気がする。それこそ一番の悲劇の原因かもしれないというこを考えさせられる。