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父さんはどうしてヒトラーに投票したの?

 

 まるで絵本のような雰囲気の造りだが、歴史的な背景がわからないと理解できないので、中学生か小学校高学年くらいが対象だろう。残念だったのは「どうして」という理由ではなく、その結果が主に書かれていたことだった。主人公は5歳の男の子。1933年、両親が言い争いをするのを耳にする。父がヒトラーに投票し、母はそれに反対したのだ。結果ヒトラーが第一党となり、まもなく全権を掌握する。批判的な言論が封じられ、ユダヤ人迫害が始まる。主人公には妹が生まれるが、その子は発達に問題があるというので、国に引き渡すように求められる。妹マリエルは、助けてくれる農家に隠されるが、一家は空襲で家と持ち物のすべてを失う。最後のことばが「父さんはどうしてヒトラーに投票したの?」。けっきょくのところ一番重要なのはこの一言かもしれない。一度スタートさせてしまうと止まらない戦争の悪夢。優越感を味わうための差別、一見合理的・科学的に見える障害のある人間の排除。それは今も変わっていないのでは? そうした意味では、お父さんが最初にヒトラーに投票することを決めるまでを、もう少し詳しく描いて欲しかった。そして自分はなぜ「○○に投票するのか?」という投票を考えるきっかけとしたい。