児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

彼方の光

 

彼方の光

彼方の光

 

 11歳のサミュエルは黒人奴隷の男の子だ。1859年のある夜、とつぜん老奴隷のハリソンに起こされて逃げるのだと言われる。サミュエルが赤ちゃんだったころ、よそに売られていった母代わりに育ててくれたのは、ハリソンと台所で働くリリーだ。でも、逃げるなんて大それたことをしてよいのか? 捕まったらどうなるのか? サミュエルはパニックを起こすが、ハリソンは容赦なく彼を連れ出す。追手をまき、伝え聞いた援助者を探しながら彼らは進む。カナダまでたどり着かなければ自由は望めない。金を要求するものもいれば、親切さをひけらかす者もいる。次から次へと援助者は変わる。今まで経験したことのない世界の中でサミュエルはどうすればよいのか、だれを信じて良いのかもわからなくなる。頼りはハリソンだけ。だが、そのハリソンが熱を出して倒れてしまった。親切な自由黒人の家でかくまわれるが、瀕死になってはじめて突然逃亡した理由を初めて教えてくれた。そしてやっと対岸はカナダという地までたどりついたのに逃亡奴隷を捕まえる賞金稼ぎに捕まってしまう。その時、サミュエルは思いがけない賭けに出る。それまで常に受け身だったサミュエルが自由のためにしっかりと足を踏み出す姿がとてもいい。助ける人たちが、必ずしも聖人ばかりでないところも説得力がある。それにしても、たとえ奴隷を人間だと思っていなかったとしても、どうしてこんなに残虐に扱えたのだろう? こうしたふるまいしかできなかった精神とは病んだものだと思うが、いまだ根本的に残る人種差別を考えると、自分の中にもそうした無意識の残酷さはないだろうかともおもわされた。歴史小説に送られる「スコット・オデール賞」受賞作。