児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

太陽の戦士

 

青銅器時代ブリテンを舞台に、まだ人類にとって夜明けといえる時代が生き生きと立ち上がる。そこの価値観は今とは異なる。様々な掟に捕らわれ、試練を乗り越えられないものは大人になれない。ドレムは生まれつき片腕が不自由だが、それがどういうことを意味しているのかなど意識していなかった。しかし、偶然祖父がドレムはそれゆえ戦士にはなれないだろうというのを聞き、自分にとって当然だった未来を失う不安を初めて自覚するが、戦争で片腕を失った戦士タロアに背中を押される。旅商人に置き去りにされた娘ブライ、やさしい母と兄、プライドの高い祖父という家族の中で、ドレムは負けん気が強い少年に育ち、ついに戦士の訓練を受けることになる。初日から腕のことでバカにしてきたルガとケンカをやらかすが、それがきっかけで族長の息子ボトリックスと深い友情に結ばれる。3年間、さまざまな苦難を仲間と共にしながら、最後のオオカミ狩りに失敗し、本来は死ななければならないところをポトリックスに助けられて生き延びた。だが、それは自分の居場所を無くすこと。羊飼いの部族の中にで第2の人生をスタートするが、元の仲間を見ることはたまらなく苦しい。そんなある日、きびしい冬の夜に羊の群れがオオカミに襲われる! 次々に試練にさらされ、自分の居場所、自分のプライドをまもるために戦い続けるドレムの姿は魅力的。さまざまな掟に縛られた時代だが、みんなが納得できれば、きちんと掟を確認しながらも同時に掟を超えた展開が可能となる。メソメソと泣くばかりのようでありながら、自分の居場所をやはり必死で得ようとしているブライの影のような姿、そしてそのブライとベルティンの祭りの火を飛び越えようとするラストシーンがたまらない。ベルティンの火は冬の終わり、春の始まりの豊穣の炎。今日のハローウィンとは反対の日だが、古代の重要な祭祀の日であったことは共通かも。どんな時代、どんな制約の中でも、私たちは居場所を求めてあがく。そして、それでよい、共にあがきながら進もうとドレムに呼びかけられているきがした。