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戦場の秘密図書館~シリアに残された希望~

 

シリア内戦下のダラヤ。政府に対抗する過激派の街とされていたが、そこには民主化を求めるごく普通の住民たちが住んでいた。自分が住んでいた街を捨てたくない、そんな住民たちが作ったのは廃墟にカムフラージュされた秘密図書館。食べ物さえも不足がちな封鎖された街の中で、本を読むことで希望をつなぐと言うと、一見きれいごとのようだが、実際に学ぶ場が無くなり、過酷な空爆に直面した心を広げるために、本を読みたくてたまらなくなるというのは妙なリアリティがある。また、図書館を批判する人間と話していて、実はほとんど字を読めないなど学ぶ機会がなかったことに気が付き、そういう人たちへの学習機会を設けることで変わっていく。これは、戦争全体にもいえることではないのだろうか? 国際的な取り決めのせいで、援助をしたくても何もできない著者のあせり。知り合った若者が戦闘で亡くなったことを知るショック。政府軍に破れ、全員が街から退去しなければならなくなるという結末。だが、かつて秘密図書館を支えたマーリクとシーハダが、そこをでた後も子どもたちのために図書館を作ろうと考え、移動図書館を作ったというエピローグに救われる。本に親しみ、自由に考える子どもたちが育ちますように。