児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

彼方の友へ

 

父の行方がわからなくなり母と二人で暮らすハツに、叔父が見つけてくれたのは、あこがれてやまない雑誌『乙女の友』の雑用係の仕事。有賀主筆は、使い走りの少年が欲しかったのにと冷ややかだが、少女たちを熱狂させた人気画家長谷川純司や大学生アルバイトの佐藤史絵里は、暖かく迎えてくれた。高等小学校出で漢字もおぼつかないハツ。編集部には大学や大学院を出たという男性がひしめき、史絵里だって良家の女子大生だ。だがなんとかして仕事を続けたい。なりゆきで流行作家をさらってきたり、少年になると髪を切ったハツは、ついに編集部に受入れられる。そんな中、昭和12年にはじまった物語には戦争の影が忍び寄る。外国風の少女の挿絵や薔薇の花まで当局に注意を受け、懸命にかばい続けた長谷川は退社。他誌から干されたのを救った作家空井は逮捕され謎の死に追い込まれる。軟弱な雑誌だと批判され、ページはどんどん薄くなるが、それでも友(読者)たちのために、なんとか雑誌を続けようと有賀はあがく。そしてハツは、偶然のことから作家デビューを果たし、有賀の召集の後の主筆を任されることになる。力がないのはわかっている。だが、友のために雑誌を守りたい! 物語は卒寿になり施設でまどろむことが多くなったハツこと波津子の人生の回想として繰り広げられるが、現在がさしはさまれることで、その後のハツの編集者として生きた人生が少しづつわかる構成になっている。夢を奪いつくす時代にあがらった小さな雑誌が、ただの女の子だがあきらめずに手を伸ばし続けたハツの姿と重なるようで切ない。一人一人の登場人物もとても魅力的な作品だった。