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春のわかれ

 

村上帝の御代のこと。小一条の左大臣家に、代々伝わる見事な蒔絵の硯があった。姫君が帝へお輿入れすることになり、婚礼道具に加えられるが、入内の当日、大臣に親しくつかえる青年が誤ってそれを割ってしまう。ひとりその事実を知った、姫君の弟君は、私のせいにすれば大したおとがめはないであろうと、青年を立ち去らせる。しかし、割れた硯を見つけた大臣の怒りは激しく、我が子は前世の敵であったかと、乳母の家へ追放する。父親の怒りの恐ろしさと、荒れた住まいの心細さに、若君はまたたく間に病に伏し、半月ほどではかなくなる。しばらくして、件の青年から真実を聞かされた大臣は、泣き悔やむがあとのまつり。青年は出家し、ひたすらに若君の菩提をとむらったということです。今昔物語より。
表紙にもなる若君の美しい稚児姿のほかは抽象的な挿絵のなか、大臣の怒りを表現する炎と、朱色に塗りつぶされた顔が、そのすさまじさを強く印象づけます。 (は)