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桃太郎の運命

 

昔話としては比較的新しい「桃太郎」。日本人で知らぬ人はいないと思われるこの主人公は、様々にくり返しパロディ化されてきた。つまり、「政治的・社会的・文化的な変化」を背景にした設定で、時代の要請に応じた「子ども観・教育観・児童文学観」を具現する役目という「運命」を背負ってきたというのだが。そのぶっ飛んだパロディぶりに驚いた。
明治期の桃太郎は、天皇の名のもとに鬼を退治する「皇国の子」だった。一転、大正期の「赤い鳥」時代は「童心の子」。北原白秋新美南吉浜田広介らが童謡を作詞。鬼ヶ島へ行く途中「お家が恋しくなって」しまう7つの桃太郎を描写した作家もいた。

大正・中後期はプロレタリア文化の影響で、桃太郎は「階級の子」。犬さるキジを搾取する資本家や地主、または逆に鬼地主をやっつける小作人の象徴として描かれた。

昭和の十五年戦争期には「侵略の子」。桃太郎隊長は、空母艦上で犬さるキジ隊員に訓示したりもする。本書の最終章、戦後民主主義になると、人気のプロ野球チームで戦う選手役など「民衆の子」となった。
本書の刊行は1983年。今も確かに、CMやゲームのキャラクターとして、その変遷は続いているようだが。著者は、「今後ふたたびこの愛すべき民話の主人公が、その意に反した変容を強いられないように、しっかりと見守っていかなければならない。」と結んでいる。 (は)