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はだしのゲン 第1巻 青麦ゲン登場の巻

 

1945年4月広島市国民学校2年生の中岡元は、父、母、5人きょうだいの家族。母親のお腹にはもうすぐ生まれる赤ちゃんがいる。げた職人の父を母が手伝う生活は貧しく、畑で麦を育てたり、イナゴを捕ったりして食いつなぐ日々。そのうえ父親が、「戦争反対」「日本は負ける」とはばからないせいで警察に連れていかれ、家族は非国民とののしられて、近所でも学校でも嫌がらせがひどい。やがて、長兄の浩二が海軍へ志願、次兄の昭は集団疎開と、家族はバラバラになってゆく。

そして、8月6日朝8時15分。原爆投下。一瞬で地獄へと変わった町。父、姉、弟は、倒れた家の下敷きに。燃えさかる火の中、父親は、「母さんとお腹の子をたのむ。逃げろ! 生きろ!」とゲンに言うのです。冷たい冬に何度もふまれて強くなる麦のようになれ、という父親の言葉を胸に、どんなことにもくじけず生きぬくゲンの物語第1巻。

敗色がこくなるほど、しめつけの強くなる警察権力。考えや感情を統制された庶民はお互いをののしり合い、軍隊のようになぐり合う。そして朝鮮人や米兵捕虜にぶつけられる憎しみの感情。

それなのに、ゲンは、他人を思いやりつづけます。地雷で片足を失ったガラス屋の店主のために、近所の窓ガラスを割って仕事をつくってやるのです。戦争で本当に恐ろしいのは、人間同士が憎しみ合う感情なのだと訴えます。作者の自伝的作品。 (は)