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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

日本の戦跡を見る

 

ページをめくって間もなくのモノクロ写真。射撃を受けて穴だらけ、無数の弾痕のついた建物。ロシアによるウクライナ侵攻以来、同様の映像を現在進行形で目にする毎日に、77年前は、決して遠い昔のことではないと実感します。
本書では、明治から昭和の戦跡(戦争遺跡)として、実際に戦闘のあった跡だけでなく、軍関係の施設、戦争遂行のための精神的支柱となったもの(「八紘一宇の塔」など)まで扱っています。

戦闘機を守るための格納施設、掩体壕(えんたいごう)は各地にのこり、公園の一部になっていたりする。大本営が避難するための地下壕は、おもに朝鮮人労働者がその危険な工事に従事したが、実際に使うに至らず敗戦を受け入れた。現在は観光地化されている広島県大久野島には、毒ガス実験用に使われていたウサギの子孫が生息している。また、洋館づくりの偕行社(陸軍の社交場)などは、その優雅な姿で現在も美術館や記念館として活用されている。

軍人と庶民の生活の格差、守られるのは一般人ではなく、いかに死ぬかという戦争をしていた。戦跡を通して様々な角度から見ることで、日本が戦争をしていた時代は今と地続きであることがよくわかります。豊富な写真と著者の思いの伝わる文章。高学年から十分読めます。 (は)