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はだしのゲン 第10巻

 

1953年3月。ゲンの中学校卒業式。その帰り道、たまたま出会った光子にひとめぼれ。隆太に応援され、つき合い始める2人。しかし、楽しい時間もつかのま、ある日倒れた光子があっという間に亡くなる。原爆の放射線が原因の急性白血病と思われた。
一方、勝子のつくる洋服はよく売れて大好評。こつこつ貯めたお金も、自分たちの店をもてるくらいになった。ところが、ムスビが麻薬の売人に引っかかり、その資金をすべてつぎ込んでしまう。麻薬中毒になったムスビは、ぼろぼろになった体で息絶える。隆太は、大事な仲間のかたきと、ヤクザたちを銃殺し、勝子と2人、東京に逃げてゆく。ほどなくして、ゲンも、絵の師である天野に、東京で切磋琢磨してこいと励まされ、汽車に乗って故郷をあとにしたのだった。
戦争に怒り、原爆に怒るゲンは、他人を放っておけない分、多くの悲しみを経験した。失った大事な人たちのために、自分の命を精一杯生きようと決意する旅立ちで、ゲンの物語第一部は完了です。
作者は続編を構想していましたが、2009年に断念し引退したとのこと。暴力シーンの多いこと、子どもが銃を持つこと。天皇の戦争責任についてその後わかってきたことなど、考える部分はあります。でも、人が人の心をなくす戦争や核兵器の恐ろしさと、1度起こしてしまうと、さまざまな苦しみが生まれ、その苦しみに終わりのないことが本当によくわかります。子どもの目にふれさせないのではなく、大人が一緒に読んで話し合いたいものです。 (は)