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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

中学生から知りたいウクライナのこと

 

著者の2人は歴史学者。それぞれ、ポーランド史、食と農の現代史を専門とし、隣国として、豊かな穀倉地帯として、ウクライナとは深く縁のある領域を研究。

本書は、ウクライナ侵攻を受けて開かれたオンラインイベントでの講義と対談(第Ⅲ・Ⅳ章)を軸に、侵攻2日後に発表した「ロシアによるウクライナ侵攻を非難し、ウクライナの人びとに連帯する声明」(第Ⅰ章)、ウェブ雑誌や毎日新聞に掲載されたウクライナ危機、侵攻についての藤原氏の文章(第Ⅱ章)、そして、それらへの補足とウクライナを知る読書案内(第Ⅴ章)で構成される。

冒頭の編集部のおすすめ通り、Ⅲ章から読み始めて正解。”ウクライナという地域”の複雑な歴史が、複雑すぎて簡単には済まないことがよくわかった。

小山氏いわく、ポーランドの食堂で出てくるウクライナ風バルシチ(ロシアのボルシチと同じ語源)は、具だくさんで滋養たっぷりだが「どういうふうに混ざってこうなる」のか「パッと見てもわかりにくい」。このスープの例えは、いま報道されているプーチンを悪とし、それに対する正義というわかりやすい構図や世論に、考えなしにのっかっては危険だという、著者の主張にもつながります。

大国や為政者の論理ではなく、中国や小国の視点で歴史や現状を知ること、「前進か後進か」の「二者択一」ではなく「『ハンドル』の操作を覚えること」、その「『ハンドル』を握っているのは」「国家間の利害を超えた」価値を共有できる「芸術や学術の担い手ではないか」、つまり言葉の力だ、ということ。

この戦争がどう終わるのかわからないけれども、歴史に繰り返し学び、正しく非難すること。

2人の穏やかにきっぱりと選ばれた言葉は、今の不穏な状況にふさがれる中で、気持ちが救われ、信頼できると感じました。 (は)