むかし、スゥエーデンの北の大地に、サーメ人の親子が住んでいました。父親のネイネ・パッゲとむすめのチャルミです。チャルミは賢く、また美しく、たくさんの結婚の申しこみがありましたが、トナカイたちと共にある暮らしをすてるつもりはなく、断りつづけました。
ある日、山からおそろしい巨人がやってきて、「むすめをよこせ」とネイネ・パッゲに言いました。チャルミは、巨人にあきらめさせようとして、トナカイ10頭分の金銀を求めますが、何度言っても巨人がすべてそろえて持ってくるので、とうとうお嫁に行くことを承知しました。
さっそく、大勢の人を招いて結婚の宴が行われるなか、チャルミは花嫁のテントで自分の身代わりを用意します。3日目の夜、巨人がテントに入ってきて花嫁に話しかけましたが、返事がありません。チャルミだと思ったのは、丸太に花嫁衣裳を着せたにせものでした。巨人は怒りくるって飛び出しますが、親子の姿を見つけて川の氷にふみ行ったとたん、深く速い流れに足を取られ、またたく間に流されてしまいました。
それっきり巨人は姿を見せることはなく、親子はトナカイとの幸せな暮らしをつづけました。
厳しい極寒の風景にも明るさを感じる挿絵。結婚に浮かれる巨人は、どこか憎めません。 (は)