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ピリカ チカッポ(美しい鳥) 知里幸恵と『アイヌ神謡集』

 

知里幸恵は、19歳で『アイヌ神謡集』を著し亡くなったが、神謡を”謡えて書ける”人だったことが、かけがえのない才能だったことがわかる。

本書は、幸恵にユカラ(神謡)やウエペケレ(昔噺)を謡って聞かせた母方の祖母や伯母だけでなく、幸恵の環境をつくった父方の代についても紹介。15歳で金田一京助と出会い、贈られたノートに書きつけた文章と刊行された作品との違いの分析、そして改めて知里幸恵が注目されることになった経緯を述べる。

「神謡集」の序文にあるように、幸恵は、「亡びゆく」民族とともに「美しい言葉」や「言い古し(ならわし)」まで「消失」させたくなかった。

書かれたアイヌ文学の最初ということ、おかげで私たちはアイヌの言葉や世界観を知れるということ。でも、幸恵の伯母金成マツが、「書くと忘れると言って」拒んできた筆録を、幸恵の没後20年以上かけ、ノート2万ページ分も記し終えたとき、「本当に記憶から消えたようだった」という姿を想像すると、複雑な思いがします。 (は)