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少年十字軍

 

([み]5-1)少年十字軍 (ポプラ文庫)

([み]5-1)少年十字軍 (ポプラ文庫)

  • 作者:皆川 博子
  • 発売日: 2015/04/03
  • メディア: 文庫
 

 森で野生児のように暮らしていたルーは、森番に捕まった危機を助けてくれたエティエンヌ一行に興味を持つ。神の啓示を受けたこの12歳の羊飼いの少年は、十字軍としてエルサレムに向かおうとしていて、親のない子と修道士フルクが従っていた。実際に不思議な治癒の力を示す、純粋で優しいエティエンヌ。一行はサン・レミ僧院で、反逆していた助修士の一団に対し、エティエンヌが神の力で修道士たちを解放したことで、一挙に有名となる。感動するまじめな助修士ジャコブに対し、現実主義の助修士ドミニクは、その陰でフルクの企みが動いていることを感じていた。そしてエティエンヌに嫉妬したノワイエ伯4男のレイモンは、自分で胸に十字の焼き鏝をあて、大天使から印をもらったと鳴り物入りで、自分が主導権を握ろうと乗りこんできた。金目当て、名誉目当て、様々な目論見がうごめく中で、エティエンヌだけは、レイモンドに主導権を奪われても、淡々としている。はたして少年十字軍はどうなるのか? 聖なる世界に身をささげるエティエンウと俗にまみれるレイモンド。野生児ルーと、彼と気が合う合理主義者のドミニク。記憶と感覚を失いレイモンの従僕になっているガブリエルは、一行に従う中で、徐々に記憶を取り戻していく。史実の少年十字軍を踏まえ、奇跡と現実を巧みに絡めるようにして現代の私たちが納得できる物語に仕上げている。ラストは、ちょっと甘いかもしれないが、希望の残る明るい作品といえるだろう。