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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

16歳の語り部

 

2011年3月11日。宮城県東松島市の海岸から2.3km、大曲小学校の5年生だった3人は、中学校を卒業した春、震災を伝える語り部の活動を始めた。

目の前で津波にのまれる男性の姿。避難所に持ってきた食料を自分たちだけで食べる人。ヘドロの臭いのするインスタントコーヒーをつまんで空腹をまぎらしたこと。ひと月あまりで再開した小学校では、「被災組」とそうでない子の、また被災組の中でもそれぞれの状況がまったく違ったこと。クラスが荒れてイライラがつのった感情の爆発。あの日「小さすぎる子どもでもなく、大人でもなかった」彼らの語る自分だけの言葉が、読者の心にするどく突き刺さります。

そして、3人の間に生まれた新たな気づき。語り部の活動をするなかで、お互いの体験や本当の気持ちを初めて知っていきます。

3人に共通するメッセージは、あの時、大人たちには、子どもを信じて見守っていてほしかったということ。未来へ伝えたいのは、人と人のつながり、災害に備える意識の重要性と、そして「1日1日を大切に生きていくこと」。

本書の案内役である当時の指導教員や、語りを受けて文章を寄せた都内の高校生の言葉は余計と思えるくらいの、3人のまっすぐな言葉に学びたいです。 (は)