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やぎと少年

 

7編を収める短編集。タイトルの話「やぎのズラテー」。暖冬の不景気で、やぎを売り渡しに出かけた少年アーロンが、突然の吹雪に見舞われ、三日三晩ほし草の山に閉じこもる間、やぎと語り交わします(やぎは「めええええ」と鳴くだけでも)。やぎを手放さずにすむ結末は幸せ。

ほかに、怠け者の息子が天国にあこがれるあまり、自分は死んだと思いこむ病にかかるが、名医がとった方法が傑作な「つくりものの天国」。とんまばかりが住むヘルムの村の7人の長老による”迷”裁きを語るのは、「ヘルムの雪」と「もつれた足とまぬけな花婿」。さらに、ヘルム村のぼんくら夫が、妻の留守中にした失敗を償おうと、毒だと言われたツボ(中身は祭りのために作ってあったジャム)をすっかりたいらげてしまう「初代のシュレミール」など。

センダックの挿絵が絶品。悪魔の姿を見事に具現化しているし、思案中の7人の長老は何とも言えないまぬけ顔です。

作者、画家ともにユダヤアメリカ人。シンガーは、イディッシュ語(東欧ユダヤの日常語)で書き続け、ノーベル文学賞を受賞。本書のまえがきに、<おとなになる機会を持てなかったおおぜいの子どもたちに>捧げると、綴っています。 (は)

(原書:ハーパー社)