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鉄のしぶきがはねる

 

鉄のしぶきがはねる

鉄のしぶきがはねる

 

 三原心(しん)は北九州工業高校の1年生、電子機械科クラスで唯一の女子だ。クラスメートの男子どもが暑いとパンツいっちょになるのにも免疫ができた。かつて工業地帯として名をはせたこの地域でも、町工場の閉鎖は続き、三原の祖父が興した工場も、特許同然の仕事ノートを従業員に持ち逃げされたのがきっかけとなり閉鎖した。モノ作りからにげるようにコンピュータを学ぶ心だが、実習時の腕を見込まれ、「ものづくり研究会」に誘われる。避けていたのに、巻き込まれるように加わるうちに、かつて、毎日工場で見ていた、美しいモノづくりの記憶がよみがえる。指導のためにやってきた流しの職人小松は、かつて三原の工場でもその技をみせてくれたすご腕だ。完璧主義の先輩原口、夢見るようにものを造る亀田、おちょうしものの吉田。ものをつくる楽しさとたいへんさ、女性であることで特別扱いされているのかという反発。そして原口先輩の恋のうわさ、ちょっと抑制した学園生活ものでなかなかいい。でもモノづくりがなくならない理由が「楽しいからだ!」というのでは、ほとんど芸術? 実際、亀田は芸術分野に進むことを決める。このコンピュータとロボットの時代に、手でものを造る意味を、作り手だけではなく、それを受け入れる社会の必要性の面からもう一歩踏み込んで欲しかった。