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ひとりぼっちの不時着

 

ひとりぼっちの不時着 (海外児童文学シリーズ)

ひとりぼっちの不時着 (海外児童文学シリーズ)

 

 ブライアンは13歳。両親が離婚して、夏休みに油田で働く父のもとに個人飛行機で向かった。ところが、上空で飛行士が心臓発作で急死してしまう。パニックを起こし、無線で助けを求めるが交信は途中で途切れる。運よく、燃料ぎれの時に湖に墜落同然で着陸できたが、脱出が精いっぱいで何も持ち出せない。母さんがくれた小さな手斧があるだけ。体は打ち身だらけ、食べ物はない、蚊の大群が群がってくる、ブライアンは八方ふさがりとなる。野生のベリーで腹を満たすが、おなかをこわす。夜に近づいてきた動物に斧を投げつけたのがきっかけで、斧を石にぶつけて火花を散らし、火を起こすことを成功させるが、探しに来た捜索機は彼に気付かず飛び去ってしまった。生きるために食べなくてはならない。なんとか魚を捕まえ、道具を工夫し、ついに鳥も捕まえられるようになるが、ある日竜巻に襲われる。持ち物を吹き飛ばされるが、湖に沈んだ飛行機が浮き上がった。あそこには、役に立つものが入っている救急袋がある。ブライアンは必死に飛行機に穴をあけ、袋を手に入れる。袋には鍋や非常食、銃までは入っていた。非常用発信機もあったが、スイッチを入れても何の音もしない。だが信号は発信され、54日目、奇跡の救出につながった。
飛行士の死からはじまるドキドキの幕開け、過酷なサバイバルと、懸命な生きる努力。サバイバル・キットが手に入ったとたん野生から切り離されたように感じる不思議な喪失感、そして何より背景にある両親の離婚と、母の浮気現場を見た衝撃。さほど本好きではなくても引きずり込むような物語展開が魅力。装丁を大人っぽくして、中学生にターゲットを絞り「ひとりぼっち」というような感傷的な言葉をとって「不時着」もしくは原書の「手斧」などシンプルにした方が読まれる気がした。