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ようこそ難民

 

ようこそ、難民!: 100万人の難民がやってきたドイツで起こったこと
 

 ドイツに住む男の子マックスの視点から語られる移民問題。2015年の難民受け入れから、急増によるトラブルを経て、それなりの落ち着きがうまれるまでの2年間を物語形式で説明した作品。マックスの両親は難民を受け入に積極的だが、祖父母は反対などさまざまな立場を登場させ、実際のドイツの雰囲気を伝えている。経済的に衰退している地方の村が、難民を助けるためにお金が使われていることへの反感、実際に一人一人の話を聞くと同情できるけれど、難民と言う集団になってしまうと脅威に感じる心理にはすごく納得してしまう。顔が見える交流が大切だと感じさせられた。難民に反感をもっていたおじいちゃんが、自分もかつて引き上げ体験をした難民だった経験を話してくれる展開も良い。とはいえ、難民が起こしたテロの発生率が交通事故の発生率と比べられても、正直理性的に受け止めるのは難しいとも感じた。ドイツの難民受け入れでは、ドイツの生活習慣を受け入れることが前提になっているが、それによって難民が故郷の生活習慣を失わなければならないのは正しいことなのか?という疑問も、現実の対応策と、理念の問題としてよく踏み込んだと思う。主人公のマックスは、どちらかと言えば勇気がなく、難民の友だちが差別されても何も言えない、子どもが自分もそうかもと思えるような主人公だ。読んで、子ども達自身が、素直に難民問題を考えるヒントとなると思う。