- 作者: フランシス・ホジソン・バーネット,小西英子,脇明子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2012/11/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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セーラが、ミンチン先生に言い放つ有名な場面
端正で平明、というのは吉田訳にも共通する、岩波の持ち味だろうか。
訳語の細部に脇さんのこだわりが感じられる。「ミス・ミンチン」「公女」など、この訳語をあてるにはそれなりの考えがあっての事だと思われる。
惜しむらくは挿絵。とても「いい子」に見える挿絵のインパクトは、他のものに比べて弱い。
「考えごとをしていたんです」と、セーラは答えた。
「すぐにあやまりなさい」と、ミス・ミンチンは言った。
セーラはちょっとためらってから答えた。
「笑ってしまったことは、失礼だったのでしたら、あやまります。でも、考えごとをしていたことについては、あやまるつもりはありません。」
「何を考えていたんです?」と、ミス・ミンチンは問いただした。「考えごととは、よくもまあ!いったい何を考えていたっていうの?」
略
「わたしが考えていたのは」と、セーラは礼儀正しく、堂々と答えた。「先生が自分のなさっていることをご存じない、ということでした。」
「わたしが自分のしていることを知らないですって?」ミス・ミンチンはあえぐように言った。
「はい」とセーラは言った。「それから、もしもわたしが公女さまで、先生に平手打ちされたのだとしたら、いったいどうなるだろう―わたしはどうするだろう、とも考えていました。そして、もしもわたしがそうなら、わたしが何を言おうと、何をしようと、先生はこんなことはなさらないだろうとも考えていました。それから、もし突然本当のことがわかったら、先生はさぞ驚いてぎょっとなさるだろうとも。」
セーラが目の前にくり広げていた空想はとてもいきいきとしたものだったので、それを語る言葉にはミス・ミンチンをたじろがせるだけの力があった。このあっけらかんとした大胆さの裏には、本当に何か隠された力があるのかもしれないという思いが、想像力の乏しいミス・ミンチンのせまい心を一瞬よぎった。
「何なの?」と、ミス・ミンチンは叫んだ。「本当のことって?」
「わたしが本当に公女さまで」と、セーラは言った。「どんなことでも、好きなようにできる、ということです。」