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遺跡が語る日本人のくらし

 

遺跡が語る日本人のくらし (岩波ジュニア新書)

遺跡が語る日本人のくらし (岩波ジュニア新書)

 

 今更のように手にとって読んでみている。もう以前に亡くなった佐原真さんが、中高生向けにと、テレビ番組で話したことをまとめたもの。

現代の日本人の生活様式や、考え方の根っこが縄文・弥生の考古学的発見から読み取ることができる、というもの。たとえば、日本人の主食は一貫して植物であって、肉ではなかったという事実。狩猟採集民族は肉を主食にしていたというのは思い込みで、実際にはほとんどの食物は植物であったというのが考古学の教えるところである。しかし、たとえばヨーロッパでは主食とは肉であって、日本の米に対応するのはヨーロッパではパンではなくて肉なのだ、というような事。

あるいは、日本の建物は柱を中心にしているので発掘するときにも、柱がどこにあったかを調べ、それによって家の大きさや構造を見いだすという事実。世界的には、建物は壁を中心にしているので、発掘では壁を掘り出すのが普通である。ちょうど、先日読んだ磯崎新の本でも、日本の建築における柱の問題が取り上げられていて、出雲大社のやけに太い柱とか、柱しかない諏訪大社の例などがとりあげられていた。これまた最近見たNHKの番組でも、たまたま同じテーマが話題になっていた。柱こそが神だったのだ、という仮説が成り立つかな。

佐原さんは考古学といえども、現代のテーマを解き明かすてがかりとするべきである、と説いていて、戦争の問題なども色々取り上げていた。同時にそれがまた賛否両論あったことも確か。でも、誠実な向き合い方が伝わってくる読みやすい本である。