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遠い日の呼び声 ウェストール短編集

 

遠い日の呼び声: ウェストール短編集 (WESTALL COLLECTION)

遠い日の呼び声: ウェストール短編集 (WESTALL COLLECTION)

 

 

『アドルフ』ぼくが出会ったのは、どこか気味が悪い老人だった。だが、足が悪い老人から買い物を頼まれ、いやとはいえずに引き受けた後、老人の描く絵にひきつけられる。かつて悪との戦いに身を投じたという老人は、社会の不平等への怒りを語り『わが闘争』を読めという。そしてドレスデン爆撃の非道さを口を極めて罵った。アドルフという名、チョビひげ・・・ぼくは彼がイギリスにのがれ、隠れ住むヒトラーではと疑う。『わが闘争』などけがらわしいという先生や図書館員、アドルフの家を襲撃する不良たち。そしアドルフがて実はドレスデン爆撃の功績で勲章をもらった元ポーランド兵であり多くの人を殺した罪悪感に生涯苦しんだ男であったという結末までは、スリリングで魅力的。住む人間の魂を食らいつくす存在『家に棲むもの』で、拾ったネコに実は助けられる流れは、なんとも楽しい。流されるように結婚したジラが、しがみつくように墓碑銘に描かれたヘンリー・マールバラの名前に導かれるまま、記者として、さらに小説家として自立していく『ヘンリー・マールバラ』は、歴史ものを取材する真剣な小説家誕生ものの姿もかいまみれておもしろい。非道な高利貸しが、時計の音に追い詰められていく『赤い館の時計』。戦うネコゴリアテを守ることで、優しい父と生き方の道を分かったことに気づく『パイ工場の合戦』。一時は心通わせながら、ちょっとした誤解がもとで、美しく気高い少女フェリシティとの淡い恋を失う『遠い夏、テニスコートで』、パラシュート降下して家に入り込んだドイツ兵は、食べ物や飲み物を欲しがった。祖父母は留守で一人だったぼくは、酔わせて反撃する作戦を立てるが、実際に彼が水のある穴に落ちたと時、なぜか溺れないように助けていた。両親を殺したドイツの兵士なのに、目の前で死なれたくなかったのはなぜか自分でも迷う『空襲の夜に』、空襲に追われて飛び込んだ避難所の怪談『ロージーが見た光』、大好きだった祖父の死後、住んでいた小さな農園を相続したぼくは、冷酷な両親から逃れて、祖父の暮らしを引き継ぐ一年を始める『じいちゃんの猫、スパルタン』。いずれも魅力的で、抑制を利かせながら人間を描いている。多角的な視点を持つ大切さを教えてくれる短編集。