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ペンキや

 

ペンキや

ペンキや

 

 しんやはペンキやで見習いをしている。お客様の望む色を感じとってペンキで表せと、親方は言うけれどとても難しい。父もペンキやだったが、しんやが生まれる前にフランスへ渡り亡くなった。母によれば「不世出のペンキや ここに眠る」と墓石に刻まれているという。自分の才能に悩むしんやは、フランスの父の墓を訪ねることにする。お金がないので船で雑用しながら向かうある日の午後、霧の中から不思議な白い姿の女の人が現れ「いつかこの船をユトリロの白で塗ってほしい」と告げて消える。ユトリロとは白い壁を描く画家。しかし母の語るような父の墓を見つけられず帰路についたしんやは、再び現れた白い女の人から父のハケを託される。そして帰国し塗装店を開くと、客の本当の思いをくみとって色に表すような仕事ぶりに信頼を得ていく。結婚し子どもを授かり、母を見送り、弟子を育てあげ、やがて年老いたしんやの元に、「ユトリロの白で」と言ったいつかの女の人が現れる。女の人に促され父のハケで最期の文字を書いたしんやは、父と同じ心臓麻痺で息を引き取る。海の見える丘に立つしんやの墓には、妻にだけ見える白い文字が刻まれていた。「不世出のペンキや ここに眠る」と。
人の一生に思いをはせられる頃に味わいたい作品。    (は)