人間がほかの動物と異なるところは、ものを握ることができる、ということであり、それができるのは、親指が自由に動くという点である。特に、親指を他の指とあわせるという動作は、人間独自のものである。
一般に、動物の前足や、食事をするための器官は、それぞれの生活に適応して「特殊化」していくが、人間のそれは、何にでも対応できる性質をもっており、それゆえに、人間は人間になった。
人間が人間であることの理由は、実はこんな、一見ささいな要素によるものだったのではないか、という仮説がわかりやすく提示されている。
テーマはただひとつ、「親指」なのだけれど、料理の仕方で、こんなに味わい深くなるのだと感心した。
実は動物界にはもう一種類だけ「握る」ことのできる動物がいて、それがパンダなのだという。しかも、そのパンダがどのようにしてものを握るのかは長年謎で、近年、上野のパンダを解剖してようやく解明されたものなのだそうな。
一つの事を深く掘り下げた方が、浅く広い知識を得るよりおもしろいことがわかる、という例と思う。