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コサック軍シベリアをゆく

 

コサック軍シベリアをゆく (岩波の愛蔵版)

コサック軍シベリアをゆく (岩波の愛蔵版)

 

 上橋さんもすすめていた一冊。もちろん知ってはいたものの、ちゃんと読んだのは初めてでした。なかなか重厚で、何日もかかってしまいましたが。

概要

コサックの頭領で、1579年~84年ロシアのシベリア進出の先鞭をつけた英雄エルマークの遠征記。

これを、冒険心に駆られて村を飛び出し、エルマークに同行した14歳の少年ミーチャの目から描く。

コサックというのは、私は民族なのかと勝手に思い込んでいたが、そうではなくて、ある種の規律を持った、「団」を指すらしい。エルマークの配下には女連れすら許されていなかった。

エルマーク自身、両親を皇帝に殺された過去をもち、コサックは盗賊稼業でお尋ね者でもあったのだが、シベリア地方に利権をもつ大貴族ストロガノフ家の庇護下に入ることにより、シベリア遠征を任されることになる。鉄砲を携え、いかだを組んでウラル山脈を越えたコサックたちは、チンギス汗の末裔で、一帯を支配していたタタール人をけちらして、ロシアの支配権を確立するが、ロシアからの補給もままならないまま、最終的にはほぼ全滅して、ミーチャほか、ごく少数のものが命からがらロシアに逃げ帰ることになる。ミーチャは、自らの価値を習い覚えた医学の知識、癒やすことに求めるようになる。

とはいえ、一度開かれたシベリアへの進出の勢いは、その後止まることがなかった。

感想

エルマークはともかくかっこいい。

すぐれた軍事指導者であり、統率者であり、人生の先輩であり、影をかかえた謎の人物でもあり。

読者視点ともいうべきミーチャの目からは、とにかく、崇拝の対象になってしまう。

そのミーチャの少年らしい悩みは、やがて、人を殺すこと、殺されること、赦すこと、癒やすことといった重層的な悩みに置き換わり、最終的にはエルマークとも衝突することにもなる。皇帝に深い恨みをもちながらも皇帝の名前でシベリア遠征をしなければならないエルマークの抱える、さらに複雑な悩みも正面から描かれるので、痛快冒険活劇、というわけにはなかなかいかない。むしろ、16世紀のロシア人はこんな近代人みたいな悩み方はしていなかったかもな、とも思うけれども、その悩みにつきあって、ミーチャと一緒に少しでも成長するのが、読者の責務というべきだろう。そう、責務、と思ってしまうほどになかなか重い一冊。

図書館には一冊しか在庫がない本だというのがびっくり。