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チョウはなぜ飛ぶか

 

チョウはなぜ飛ぶか (岩波少年文庫)

チョウはなぜ飛ぶか (岩波少年文庫)

  • 作者:日高 敏隆
  • 発売日: 2020/05/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

おもしろい!日高さんが小学生の頃に抱いた疑問―アゲハチョウはなぜ同じところを飛ぶのか―を20年以上持ち続け、地形、時間、気象など・・・1つ1つ検証し答えに近づいていく過程に、とにかく引きこまれる。そもそも、チョウが同じ道を飛ぶことに気づき、不思議に思う心がすごい。そして、1つ解決するとすぐに新たな疑問が数珠つなぎにわいてくる。検証作業に終わりがない。失敗をくり返しながら答えに近づいていく楽しさに終わりのない様子が、傍から見ていて(読者をそんな気分にさせるユーモラスで目に浮かぶ文章!)たまらなくおもしろい。
日高さんは1930年生まれ。東京の渋谷にも空き地や自然があった。小学4年生の頃には日中戦争が激しさを増し、学校教育は軍隊の様相(・・・今もその名残はあるように思います)。体の弱い日高少年は先生から「お前なんか日本のじゃまだ。早く死んでしまえ」としかられ続け、今で言う不登校になった。そして原っぱに行っては、ずーっと虫を見ていたのだ。だが、昆虫学をやりたいという気持ちを後押ししてくれたのも先生だった。新しい担任が言ったそうだ。「昆虫学をやるなら本を読みなさい。それには国語が要る。地理も歴史も要る」。勉強がおもしろくなった日高少年は、敵国の言葉でも負けた国の言葉でも自分に必要と思って、英語もドイツ語も独学で身につけた。知ることが楽しい!それが原動力になっていった。この辺りのことが語られる第2部のエッセイを含めて、その人、人生を感じ取れる本を中高生にぜひ手渡したい。 (は)