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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

動物と向きあって生きる 旭山動物園獣医・坂東元

 

「ぼくは、人とうまくつきあうのが苦手だ。」と始まる。子どもの頃の経験、転校、いじめ、落ちこぼれ・・・”人間”のおとなへの強烈な不信感(特に教師と獣医・・・)が、動物の世界へと気持ちを向かわせ、昆虫少年から鳥、牛、そして野生動物と向き合う動物園の獣医にたどり着いた。
著者は旭山動物園の現園長。獣医として初めて野生動物と向き合ったときに衝撃を受けた。保護されたヒグマの子が人間からミルクをもらうことを拒みけっして気を許さなかった。「すごいヤツら」と坂東さんに思わせた尊厳ある圧倒的な存在感。ただ淡々と生き淡々と死ぬ野生動物の姿を「生きているから生きている」と中学生たちに講演した後、「少し前向きに生きる気になりました」と自殺願望のあった子から手紙がきたそうだ。
動物の気持ちに立って対等に考える坂東さん、そして旭山動物園。人間から見てのかわいさや満足、かわいそうと思う気持ち、お金になるといった価値観は間違っている。”なかよく”ではなく”調和”だという考え方は、人間同士にもあてはまるんじゃないかと思わされました。中学生に読んでもらいたいです。 (は)