児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

バンビ 森に生きる

 

森の茂みで生まれた小さなノロジカの子バンビが、美しく厳しい自然の中で生きることを学び、1頭の雄鹿として成長していく物語。
新訳ということで、既刊と比べてみました。岩波少年文庫から出ている高橋健二訳(1952年)と上田真而子訳(2010年)との3冊で。全体の印象としては、酒寄進一訳の本書は描写が割と淡泊で直球的に感じました。

特に違いを感じたのは、バンビに生きること死ぬことすべてを教える年寄りの雄鹿との出会いの場面。母鹿を求めて鳴き叫ぶバンビに対して古老が言う。酒寄「ひとりはいやか?恥を知れ!」、高橋「おまえはひとりでいられないのか。はずかしいと思え。」、上田「ひとりでいることができぬのか?恥ずかしいぞ!」 この時バンビは古老の鹿に対して尊敬の念を抱き、その存在に近づきたいと思うのですが、酒寄氏の訳者あとがきを読むと、ノロジカは群れをつくらないとあり、古老の言葉に納得します。

サブタイトルにも訳者の考えが表れています。「森に生きる」(酒寄)「森の生活の物語」(高橋)「森の、ある一生の物語」(上田)。どの訳者もバンビが生きるオーストリアやドイツの”森”に身をおいた経験があった上で日本語にしている、ということは共通しています。 (は)