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森の物語 シートン ショートセレクション

 

ヨシタケシンスケのイラストで統一された「世界ショートセレクション」シリーズ。本文の挿絵はシートン本人によるもので安心しました。
読み応えあるのは「母さんコガモと陸路の旅」と「ロボ クルンパのオオカミ王」。新米母コガモが10羽のヒナを800メートル先の池へ連れて行くまでのドラマ。「敵か中立」しかいない野生動物界に対し、人間の暮らしがもたらした障害にはシートンが最低限の味方をします。客観的でもありコガモの気持ちにもなり自在につづるシートンのまさにワールドです。かたや、どんな武器や罠、毒餌にも屈しない「オオカミ人間」ロボVSたった1つの弱点、雌オオカミブランカへの愛を見破るシートン。ロボの最期はいつ読んでも胸が苦しくなります。
これら2編の間に短めの「開拓地の生活 母さんヒツジの本能を引き出す」と、2つのテーマ「森の物語」「飼われた動物の野生」でくくられたごく短い文章が多数収められています。「開拓地の生活」はシートン少年がヒツジの難産に立ち会った話。「森の物語」ではシートンの観察対象は動物に限らず、アカツメクサやオオバコなどの雑草や樹木、昆虫にも及びます。
動物の痕跡を徹底的に観察しよみ解く、まさに自称「動物界のシャーロック・ホームズ」を堪能できる1冊です。  (は)