児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

草原の子マレディ

 

草原の子マレディ (岩波少年文庫 (3124))

草原の子マレディ (岩波少年文庫 (3124))

 

 アパルトヘイト下の南アフリカでの一人の男の子の成長物語。父が出稼ぎに行った後帰らず、よその家の牛の世話をする仕事をしなければならない暮らしをしている。そのため学校に行けない。周りより優秀だと自負しながらも、実際には進級もできない焦りと憤り、伝統的な暮らしをする人々への畏敬、父への憧れなどが描かれているが、あえて背景が描かれていない感じもあり、日本の中学生が読むとちょっとわかりにくいのではないかと思う。また、個人的には「男」が強く意識されている感じがした。社会の抑圧に抵抗するのが男の誇りで、その誇りが打ち砕かれてしまった、という雰囲気があり、それが間違っているわけではないが、時代ゆえかちょっと過剰な感じがした。女性にも誇りがあると思うが、その論理の下ではこの問題はどう描かれるのだろう。だが主人公マレディは、気の毒な環境にいるといえるが、可愛げがなく怒りを抱えている。そして実際に父親に出会った後、あんなにあこがれていたのに、実際はあまりうれしくない自分を見つけている。このリアリティは貴重であると感じた。

サンゴしょうのひみつ

 

サンゴしょうのひみつ

サンゴしょうのひみつ

 

ニュージーランドの作者によるフィリピンの島を舞台とした、ちょっと神話的な物語。ジョナシは、狩りに連れていってもらえない悔しさで海に出た時、真っ白で巨大な海亀に出会う。最初は捕らえようとしたジョナシだったが、魅せられてなんとか友だちになろうと考え、エサをやってついになつかせる。実は赤ん坊のころ一人カヌーに乗って流れ着いたジョナシは耳がきこえないため口がきけない少年だった。母親として育てたルイザは溺愛したが、村人たちはジョナシを軽んじ、恐れた。干ばつと巨大なモンスーンにより村は大きな被害を受ける。村人たちは、不吉な出来事をジョナシのせいにする。族長の息子アイサキは、セブで学校に行った経験もあり、ジョナシの責任ではないことを理解し、セブの聾学校にジョナシを行かせようと考えるが、白い巨大海亀のせいで、ジョナシは一層悪魔扱いされて危機が訪れる。耳が聞こえないために周りのことをよく理解できないジョナシの孤独と純粋さが印象的。悲劇的とも神話的ともいえるラストは評価が分かれるところではないか? 私個人としては、もう少し、この世界でジョナシに新しい道が開けて欲しかった。 

海藻はふしぎの国の草や木

 

海藻はふしぎの国の草や木 (たくさんのふしぎ傑作集)

海藻はふしぎの国の草や木 (たくさんのふしぎ傑作集)

 

著者は下田に33年間住み、下田臨海実験センター長、南伊豆海洋生物研究会会長、筑波大学教授としてのキャリアを持っている。日ごろあまり気にもとめていなかった海藻について、わかりやすく子どもにも納得いくように説明されていて興味深かった。4年生の男の子が、いとこに誘われて下田に遊びに行き、そこで水族館の自然教室で海藻についていろいろ教えてもらう、という内容。導入と最後は三芳悌吉氏の絵で、あとは写真。海藻の実際のようすや実験過程は、写真の方がわかりやすいのでこの構成は適切だとおもった。海藻に紅藻、褐藻、緑藻の種類があり、光合成をしているのに緑ではないものがある理由など、なるほどと新しい発見がたくさんあった。海藻をつかったおしばづくりも紹介されているので、親子でチャレンジしてみると楽しいと思う。 

トーラとパパの夏休み

 

トーラとパパの夏休み

トーラとパパの夏休み

 

やっとパパとの夏休みが始まる。女の子のトーラは、まずは買い物に行くというパパにイライラ。車にもたくさん乗らなければならなくてうんざり、やっと森についたけど動物が見つかりません。大きなヘビを見つけますが、パパったら木の根だっていうの! パパがリスを見つけますが、トーラが見つけたのはキリンの群れ。子どものころに木がたくさんはえていた森は、今は切り株だらけでパパはがっかり。でも、トーラには切り株トロルがたくさん見えます。そして霧に飛び込んだトーラは、ちょっと怖くなってしまいましたがすぐパパが追いついてくれました。二人でワニと闘い、買ってきたソーセージを食べ、一緒にドラゴンを見ながら眠りにつきます。最初は現実世界しか見えていないパパが、最後には一緒にドラゴンを見ながら眠りにつく、という展開は、あるあるパターンともいえますが、エリクソンの絵の効果もあって、リアルでほのぼした雰囲気に仕上がっている。パパとキャンプに行きたくなるね。 

クジラ 海のホニュウ類たち

 

クジラ―海のホニュウ類たち (チルドレンズ・ミュージアム動物シリーズ)

クジラ―海のホニュウ類たち (チルドレンズ・ミュージアム動物シリーズ)

  • 作者: シルヴィジラルデ,アンヌ・タルディ,クレールメルロ・ポンティ,フェルナンド・ピュイグロザド,S. Girardet,Fernando Puig Rosado,A. Tardy,C. Merlau‐Ponty,菊地有子
  • 出版社/メーカー: ブロンズ新社
  • 発売日: 1996/10
  • メディア: 大型本
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 科学の絵本だが、絵は柔らかいくユーモラスなタッチで描かれている。例えば、”クジラの尾ビレは、10㎡・・・部屋と同じくらい”という説明では、鯨の尾ビレの上をベッドルームにして寝ている人を描くなど、イメージしやすいようになっている。「クジラの祖先は4本足」「フィルターの口をもつヒゲクジラ」「ハクジラのみごとな歯ならび」などのワンテーマ見開きで説明し、クジラの保護や伝説まで多角的な内容を扱っている。調べ学習にも使えるが「クジラっておもしろそう!」と感じさせてくれるところがよい。

片手の郵便配達人

 

片手の郵便配達人

片手の郵便配達人

 

 第二次世界大戦に従軍して早々に左手を吹き飛ばされて除隊となった十七歳のヨハン。故郷に戻った彼は、幸いに入隊前の郵便配達人の仕事に戻ることができた。小さな村々を歩き回り手紙を届ける。戦争で離ればなれになった家族や友人からの手紙を受け取った人々は喜んで彼にちょっとした差し入れをくれる。だが、時には愛する者が亡くなったことを知らせる黒い手紙を届けなければならない。結婚せずに彼を産み、助産師として自活していた自由と独立を愛していた母は、お産の帰りに吹雪の中で亡くなってしまった。今でも時折母が恋しい。山や林を歩き回って黙々と配達する仕事を愛しているヨハン。戦争末期の1944年8月から敗戦直後の1945年5月まで、彼が見守り、彼を見守ってくれている村の人々との交流が淡々とした雰囲気で語られていく。終わりを待ち望みながらもその時に何がおこるのかという不安に駆られる人々の姿、思いがけない愛の日々の訪れとあっけなくも残酷なラストは、声高ではなく、戦争の残酷さを伝えてくれている。

ダイヤモンドより平和がほしい 子ども兵士・ムリアの告白

 

ダイヤモンドより平和がほしい―子ども兵士・ムリアの告白

ダイヤモンドより平和がほしい―子ども兵士・ムリアの告白

 

 ダイヤモンド利権で内戦が続いたシエラレネ共和国。多くの死者や手足を切られた犠牲者の取材にいった著者は、犯行は子ども兵士によるものであったことを知り、子ども兵士がなぜそんなことをしたかを調べるため、元子ども兵士だった子どもたちも受入れている施設を訪ねる。そこで、元兵士のムリアから話をきいた。両親を目の前で殺され、無理やり拉致されて兵士の訓練を受けさせられ、体に麻薬を入れられて殺戮行為をしてきたムリア。まわりに誰もいなくなった一瞬のチャンスをつかんで逃げ出した。彼もまた犠牲者であったことを知る。読みやすい雰囲気で、日本の同年代の子どもたちに理解してもらえるように書かれたノンフィクションだが、もう少し背景(子ども兵士の後ろで戦争をおこしている大人について)も知りたいと思った。ただ、実際に兵士とさせられた子どもたちのつらさをきちんと伝えようとする姿勢はいい。悲劇的な最後で有名になってしまった著者だが、世界の中の悲惨な事件を私たちに伝えることで平和に役立てようというジャーナリストの活動はやはり貴重なものだと思う。