児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

ミスターオレンジ

 

ミスターオレンジ

ミスターオレンジ

 

 1943年。ライナスの兄アプケは、志願兵としてヨーロッパに行ってしまった。6人兄弟の3番目のライナスに、仕事が繰り下がり、家業の八百屋の配達を担当することになった。新規のお客さんはヨーロッパから来たばかりとの、難しい名前で、注文は毎回オレンジひと箱。ライナスは、その優しげなおじさんをミスター・オレンジと呼ぶようになった。赤と青と黄色だけで描かれた不思議な絵、手作りの家具、レコードから流れるブギウギ。新しい世界にライナスはあこがれるが、同時にアプケの手紙から戦場の恐ろしさを知ってしまう。絵なんて、戦場では役に立たないと思うライナスに、ヒトラーは絵を恐れたからこそ自分が亡命したことを語り、自由に考えることがヒトラーを打ち負かす力だとミスター・オレンジから聞く。だが、描くために無理をした画家は肺炎でなくなってしまう。画家のモデルはモンドリアン。なるほど原色を使い、絵でリズムを奏でる画家だと納得。だが、モンドリアンの名前を物語の中で出さないことで、むしろ普遍的な雰囲気がでてよかったと思う。

さすらいの旅 続・いきのびるために

 

さすらいの旅―続・生きのびるために

さすらいの旅―続・生きのびるために

 

 母や姉たちと別れ別れになってしまったパヴァーナは、父とともに母を探しに旅に出るが、父は病でなくなってしまう。一人さまよう中で、無人の村で赤ん坊を見つけハッサンと名付ける。足を失った気の強い男の子アシフ、地雷原のそばで死にかけた祖母と暮らす女の子レイラと出会う。パヴァーナは、最終的に子どもたち4人で難民キャンプになんとかたどり着くが、そこでも地雷でレイラを失う。次々に命が失われていく不条理と絶望。だが、偶然母たちと再会を果たし、やっと救いをえる。母親と運よく再会できるという幸運は、都合よいものに思うが、同時にそうでもなければ救われないので、この結末でよいと思う。パヴァーナと別れ、フランスをめざしたショーツィアの運命も気になる。

ながいながい旅 エストニアからのがれた少女

 

ながいながい旅―エストニアからのがれた少女 (大型絵本)

ながいながい旅―エストニアからのがれた少女 (大型絵本)

 

 両親が離婚しておばあちゃんと暮らしていた女の子がいました。でも、犬と一緒に元気に暮らしていました。ところが戦争がはじまります。おばあちゃんは安全な田舎のもう一人のおばあちゃんの元に女の子を送ります。犬ももちろん一緒。無事についたものの、戦争は田舎にもやってきて女の子を守ろうとして吠えたのが気に入らなかったのか、犬は撃ち殺されてしまいました。女の子はそれでも大好きな学校に行ったり友達と遊びますが、また別な兵隊が来たので、おばあちゃんは女の子イロンを救うためにスウェーデンへと送り出します。けれども、おそろしい経験のせいでイロンは病気になってしまいます。お父さんの妹、画家のおばさんがイロンを引き取り、助けてくれなかったら危ないところでした。そしておばさんはイロンに子犬をくれたのです! イロンは、無事に旅を終えたことを知ったのでした。 リンドグレーンの挿絵画家の自伝的な作品。小国エストニアに生まれ、祖国はドイツに次はソ連に荒らされスゥエーデンにのがれた。愛してくれる肉親の助けで救われ、たぶん運が良いほうであったと思うが、それでも過酷な難民生活であったことは間違いない。今も、同じことが続いているかと思うと、過去の物語とは思えない。

がれきのなかの小鳥

 

がれきのなかの小鳥

がれきのなかの小鳥

 

 エルスケは、家族と離れ、たった一人で森の家で暮らしている。この家の人はとても親切。そしていろんな人が時々きては、しばらくいていなくなる。実はエルスケはユダヤ人。オランダのこの家族は、彼女を親戚の子だといって守ろうとしてくれているのだ。本当のことは何も言えない。不安のなかでも、時々に知り合った人との交流を心の支えにしながら、鳥たちをみつめ、懸命に生きている。歴史的な背景を知らないと分かりずらい面があるため、短い話だが高学年以上対象かと思われる。何もかもが破壊される中で、大切な思い出を絵で描こうと決意する、エルスケの静かな意思に胸をうつ。

トンヤンクイがやってきた

 

トンヤンクイがやってきた

トンヤンクイがやってきた

 

 中国は長江下流の米どころに住む農民の子ツァオシンは、東洋鬼(トンヤンクイ:日本軍)がやってくる噂を聞く。進軍してきた日本軍のため、ツァオシンの家族も弟以外すべて殺されてしまい、弟もひどいけがの後遺症が残る。一方、日本では武二が、父を失ったものの、母や兄・姉に囲まれ幸せに暮らしていた。だが、戦争は、看護婦の母を徴用してしまう。日に日に乏しくなる食料、厳しい教練が課され、勉強らしい勉強ができなくなっていく学校。中国、日本の両方の男の子の視点から戦争がもたらすものを描いているのだが、ツァオシンのコメの闘いが、とてもおもしろかった。日本軍が徴発に来ると、村中で逃げて日をかせぐ、次には泣き言をいって量を減らすようにする。最後に渡すときは、水を吸わせて重くしたり、砂を混ぜるなど、最小限になるように工夫する。正面切っての戦いではなくても、じわじわとしたこの農民の闘いが日本軍を追い詰めていく様子は圧巻。そして武二も、最終的に東京大空襲で祖父と姉を亡くす。戦争は庶民にとって、どんなに無益かを知るのには良い。また銃や爆薬ではない戦い方は、いろいろ応用できそうな気がした。

アウシュビッツの図書係

 

アウシュヴィッツの図書係

アウシュヴィッツの図書係

 

 絶滅収容所で外国の査察対応用に設けられた家族収容所。そこだけは子どもも生きることができた。禁じられていたにも関わらず、学校が開かれ、たった8冊だが本があった。本が見つかれば処刑される。だが14歳のディダは、進んで図書係となりボロボロの8冊を心から愛した。ひるむことなくドイツ人に渡り合い子どもたちを守ったリーダーのヒルシュ。ユダヤ人への憎しみという感情もなく、ただ淡々と医学的な興味のままに人体実験で人間を切り刻むメンゲレ。ほとんど無謀な脱獄を試みる者や、失敗しての処刑。誰を信じていいかさえわからなくなる中で、ディダは本の力を知る。かつて読んだ本、今読む本、物語を語る人さえあれば存在する生きた本。戦争末期、アウシュビッツから移送されて食事さえまともに出ない施設で死にかけたところにやっと解放軍が来て救われる。実在の少女をモデルとしたフィクション。一人一人の登場人物が生きた人間として語られ、その中で本を愛する意志の強いディダの姿が魅力。

ジャック・デロッシュの日記 隠されたホロコースト

 

ジャック・デロシュの日記 隠されたホロコースト (海外文学コレクション1)

ジャック・デロシュの日記 隠されたホロコースト (海外文学コレクション1)

 

 エマは摂食障害だ。ちょっとぽっちゃり型の自分がいやで始まったダイエットが、今、命に危険を及ぼすレベルになっている。きっかけはおばあたんの死。戦時中に捕虜として農場で出会い、一度は引き裂かれたのに、国境を越えて互いを見つけ出して結ばれた祖父母は、無一文から財産を築き、まわりからも尊敬されている、あこがれで自慢の祖父母だ。だが、死んだ祖母の遺品から出てきた「ジャック・デリロッシュの日記」そこには、アーリア人種の優越を信じ、その思想のために殺された父を尊敬し、自分も同じ道を歩もうとした知的な青年のものだった。フランスに生まれながらナチスに協力し、絶滅収容所で着々とユダヤ人を“処理”することに励む青年。彼は乱暴なことは苦手としながら、忠誠を示すために、幼児と母親をついに手にかけてしまう。そして、彼は、そこで出会ったポーランドの美しい娘と恋に落ちる。この女性こそ祖母だと気付くエマ。だが、この美しい娘は、何が起こっているか知らないふりを選ぶのだ・・・・。絶滅収容所という狂気が、責任を感じない理論家によって粛々と進行していく恐ろしさ。それは、日本の戦後だって無関係ではないはず。さいごの思いがけない真相が恐ろしい。