児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

葉っぱの地図

 

12歳のオーラは、かあさんが死んでからもたった一人で暮らしていた。母さんが教えてくれたのは薬草の知識。そして植物たちはオーラにさまざまな事を教えてくれた。村の人たちの助けに背を向けるようにして。だが、葉っぱに黒い斑点があらわれる。村人にも病人が出始め、お屋敷の主ハイドンは病の原因は植物だといって植物を焼き払おうとする。川で交易をしているブルーコートの一人イドリスは、兄が病にかかったと言ってオーラに助けを求めてくる。そしてハイドンの姪アリアナは、かつてはオーラの遊び友達だったが、母親が死んでからはすっかり疎遠になっていた。母親は病の治療法を知っていたに違いない、その手がかりは川の上流にある。イドリスもまた兄から上流に病のヒントがあるときかされていた。この3人はブルーコートの船に密航して川の上流に向かうことになる。だが途中で3人は見つかる、そしてオーラは誰のことも信用しなかった。母親の思い出にしがみつくだけだったオーラが、自分の無力さに気が付き、ついに3人は助け合うことになる。人々を蝕む「葉っぱの地図」と呼ばれる病の原因と治療を見つけ出していくラストはほっとするが、それよりも安心させられるのは、オーラのかたくなさがほどかれていくところかもしれない。私たちは、なにかと意固地ですからね。

モノクロの街の夜明けに

 

1989年のルーマニアはチャウシェクス独裁体制下にあった。食料は配給の列にならばなければ手に入らない、電力は不足気味で突然の停電もある。17歳のクリスチャンは、突然スパイになるように命じられる。アメリカ大使館に勤める母を迎えに行って、大使のダンと仲良くなったことが問題視されたのだ。ことわれば何をされるかわからない、命じられた通りにすれば病気の祖父の薬をくれるという。同じ高校のリリアナへの憧れが、思いがけず進展するが、その喜びもつかぬま、二人でこっそり飲んだコーラが密告され、リリアナからスパイよばわりする。だれがスパイかわからない緊張の中で、親友だったルカさえ信じられなくなるクリスチャン。自由へのあこがれを教えてくれた祖父、その言動におびえきっている母。そんな中、密かにきいたラジオから、周りの国がソ連の支配を離れ、自由を手に入れていった。かすかに希望が芽生えた矢先、祖父は秘密警察に虐殺される! 国民の10人に1人が密告者だったという追い詰められた中で、誰を信じればいいのか? 自分自身さえ信じられなくなる切迫した中で、ついに蜂起がはじまる。立ち上がった民衆への軍の発砲の中で、倒れたルカ。逮捕されるクリスチャン、リリアン。ついにチャウシェクス政権を倒すが、その後もすべてが解決したとはいえないことが最後にわかる。こんなにも最近まで、これほどひどいことがあったことを知らなかったが、世界にはまだこうした国がまだあることを忘れたくないし、こうした国にしてはいけない。

リックとあいまいな境界線

 

『ジョージと秘密のメリッサ』続編。リックは内向的な男の子だ。小学校の時から仲がいいジェフと、中学に入ってからもつるんでいる。だが、ジェフの乱暴で差別的な言動はいやでたまらない。そして、自分が他の人と違うような不安を感じ始めている。まわりや父さんは女の子のことをいうけど、女の子が気になるという気持ちが理解できないのだ。小学校の時いっしょだったジョージは、中学に入ったと同時にメリッサとして女の子になっていた。LGBT+について話し合うレインボークラブに思い切って行ってみるが、自分でも自分のことがわからない。ジェフにバレてからかわれるのも嫌だ。父さんはリックがオクテなだけだという。そんな中、中学になっていやいや始めたおじいちゃんの家の訪問で、思いがけずおじいちゃんと気が合うのを発見。大切な悩みの相談相手になる。自分にとって大切なことが何かを気が付き、ジェフから離れて歩き出すリック。でも敵役というべきジェフ君。なせこういう子になってしまったのだろう。ジェフの母親はジェフの態度を間違っていると思っているが、影だけみえる父の問題がありそう。ジェフ君のことも、もう一歩踏み込んでほしかったようにも思う。

きりこについて

 

極めつけのブスに生まれついたきりこは、両親から常にかわいいと言われ(美形の両親は本気でそう思っていた)、自分はかわいいと確信し、自信をもってまわりを巻き込む女の子として成長していった。ヒラヒラの服と顔とのギャップに、周りの親たちは絶句! 思わず我が子に「あの子とは仲良くしてあげなさい」と口走ってしまい、みんなの中心で君臨する。小学校の体育館裏で拾った黒猫のラムセス2世は、猫を理解してくれるきりこの絶大な支持者だ。だが、小学校5年の時に、初恋のコウタ君に「ブス!」と言われ、周りは突然きりこがブスだと気づいてしまう。だが、きりこにはわからない。きりこは、ただきりこなのだ。悩んで引きこもったきりこは、ある日覚醒する。ド派手な服を着て男の子と遊びまわっているちせちゃんが、ある日レイプされたくやしさを訴えるのに共感する。正直に自分を見つめるきりこがたどりつくのは? テンポよく、何ともこきみのいい楽しい物語。

作家たちの17歳

 

太宰治宮沢賢治芥川龍之介谷崎潤一郎樋口一葉夏目漱石という6人の作家の17歳に焦点をあて、当時に作品や日記をつけていた作家はそれを紹介。早熟の才能を開花させた太宰、早世の賢治、芥川、一葉などはイメージがあまり変わらないが、谷崎が幼少期は豊かだったが、事業の失敗で思春期、青年期とまさかの苦労人とは知らなかったので、ちょっとびっくりした。また、漱石が明るいスポーツマンというのも意外。とはいえ、それぞれの体験は後年にも関係してるといえるだろう。ちょっとおもしろい視点だったが、取り上げられているのはいずれも文豪。このへんを読んでいる中高生は、どのくらいいるのかな(笑)

ネバーウェディングストーリー(モールランド・ストーリー3)

 

「フレンズ~ラブ・ラブ・ラブ」と予告されていたのが、このタイトルになった。こっちの方が面白い。コトのマンションの隣に建設された高級ホテル『プーロ』。緊張しつつ、探検で訪れてみたホテルで偶然結婚式を見ることになったコトはすっかり驚いてしまった。パルや700も巻き込み、自分が感じた違和感を考えていく。そして、自分の両親が結婚した経緯を知ることになる。コトがひいてしまうほど、仲良しの両親。こういう両親も、なかなか児童文学では出てこなかったかも。まもなく中学生という3人組。ゆっくり、じっくり考える3人組、なかなか良いキャラです。

ロックなハート(モールランド・ストーリー2)

 

コト、パル、700の3人組は6年生の夏休みに入った。コトは偶然モールランドでライブを行う真っ赤な服の高齢の男性と出会う。ロックだという歌の歌詞は難しいが、意外と声は甘く美しい。シュガーと名乗る男に巻き込まれ、観客からお金を集める役を務めるようになってしまった。半世紀前は歌手だったというが、それは本当? 調べていく中で、シュガーが700の祖父で若いころ実際にボーカルを務めていたことまでたどり着くが、その意外な真相に驚く。コトが読んでいる『トムは真夜中の庭で』とシンクロするように、自分が知らない過去の世界との出会いによって、世界を広げていく。夏休みに入るとすぐに宿題を片づけるコト。そういう主人公って意外といないのだが、実際にこういう子っているよね。そして、こういうコトだから共感できる子もいると思う。