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大地のランナー 自由へのマラソン

 

大地のランナー―自由へのマラソン (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)

大地のランナー―自由へのマラソン (鈴木出版の海外児童文学―この地球を生きる子どもたち)

 

 南アフリカ出身の黒人マラソン選手ジョサイア・チュグワネ(1996年アトランタ大会金メダル)をモデルとして、南アメリカアパルトヘイトだけでなく、オリンピックでの黒人差別の歴史のを背景とした、一人の黒人ランナーの物語としている。黒人選手はアフリカ以外の国の代表選手としては参加が可能となった後も、アフリカ代表としての申請が却下されたというのは、衝撃の事実でした。エチオピアが、1948年大会から申請を続け、やっと1956年に参加を認められたということは、全く知らなかった。この物語の主人公サミュエル(通称サム)は、南アメリカの堅実な黒人家庭に生まれる。まじめで、白人に逆らうことを考えていなかったにもかかわらず、黒人の代表が、平等の取り扱いを求めた文書を提出しにいくのを見学していただけで、武器のない代表と群衆に向かって発砲する警官のため、両親と妹を殺され、兄の一人は片足を失うけがをする。サムは兄とともにホームランド(黒人地区)の叔父の所に行かされる。幸い、叔父は地域では顔が利き、読み書きができた兄は金山の事務員として職を得る。サムは、走ることが大好きだったが、その速さを見込まれて、働きながらも走る練習を続けられるように配慮される。兄たちは、黒人差別に抗議して、一人は殺され、一人は投獄される。だが、サムは、走ることで戦うことを決める。マンデラの釈放という流れの中で、国がオリンピックにも黒人選手を出そうという動きが出た中で、サムはチャンスをつかみ、ついに金メダルを手にする。黒人が、初の選挙のために、長い列を作り、何時間も待って投票するようすから、参政権の貴重さを強く感じる。あきれるような差別の歴史が変わってきたことにほっとするが、つい最近まで続いていただけに、差別の根が残っていることも強く感じさせられた。