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新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

ぬすみ聞きー運命に耳をすまして

 

ぬすみ聞き―運命に耳をすまして

ぬすみ聞き―運命に耳をすまして

  • 作者: グロリアウィーラン,マイクベニー,Whelan Gloria,Mike Benny,もりうちすみこ
  • 出版社/メーカー: 光村教育図書
  • 発売日: 2010/06/01
  • メディア: 大型本
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 我が家のプランーターで育てているワタの実から、今年もふわふわとした綿が顔をのぞかせ始めました。夏空に純白に咲いた花が翌日ピンク色に染まり、やがて枯れると実がふくらんできて種のまわりに綿をつくります。それは本当に自然の神秘としか言いようがないのですが、このような絵本や某衣料品店の店頭で流れる映像の中に広大な綿花畑を目にすると、ただ美しいとは言っていられない気持ちになります。
本書のタイトルである「ぬすみ聞き」とは、黒人奴隷の子どもたちが毎晩お屋敷の窓の下に忍んで主人家族の会話を聞き、その情報を大人の家族たちに伝えることです。新しい奴隷監督を雇うこと、父さんが別の主人へ売られてしまうかもしれないこと。時にはお嬢様の暗誦する素敵な詩が聞こえることも。ある日、聞こえてきたのは「新しい大統領リンカーン奴隷制を終わらせると言っている」という話でした!
夜明け前に始まる綿つみ労働、子どもも容赦なくムチで打たれること、冬でも靴はもらえずシャツ1枚で過ごすことなど、奴隷家族の暮らしの厳しさが語られる一方、奴隷の子どもたちがお腹いっぱい昼食を食べたり、お屋敷のパーティーの音楽に合わせて草の上で楽しそうに踊っていたりという描写でその理不尽さがぼやけてしまう気がしました。巻末にあるごくごく簡単な奴隷制度の歴史の最後にある、「その後も黒人への差別と迫害は長くつづいた」という一文の本当の意味を、大人が説明できなければと思います。    (せ)