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ぼくたちがギュンターを殺そうとした日

 

 敗戦前後のドイツ。実の親とうまくいかず、叔父の家にあずけられていたぼくは、友だちが欲しかった。ドイツの海外領土から難民となって引き上げて来た家族が村の家に割り当てられる中、やっと近い歳の友人レオンハルト、エルヴィン、ヴァルターができた。そしてギュンターもやってきたが、いつも鼻水をたらしてぼーっとした彼は、またたくまにいじめの標的になる。そしてある日、追い払おうとしてもついてくるギュンターに対し、4人は彼をトロッコに閉じ込めて石をぶつけるという限度を超えた行動をしてしまった。ギュンターは数日学校を休んだが、犯人の名前は明かさなかった。だが、特にレオンハルトは過剰に反応し、もし事件がばれれば、施設に送られるとおびえた。ぼくだって過酷な修道院の寄宿学校に強制的に入れられるおそれがある。あとの二人もヤバイと感じていた。レオンハルトは、口封じのために、ギュンターを泥炭地の沼に沈めて殺してしまおうという殺人計画を言い出す。そんなことを言われて、恐ろしくてたまらないが、だからといってどうしたらいいのか、僕にはわからない。直前まで戦争は多くの人を殺していた。ユダヤ人やハンディキャップのある人間も。だれかに助けを求めたい、だが誰に? 身近で助けてくれる大人たちは、戦争から戻ったばかり。ナチスのSSとして従軍していたほんの少し年上の青年たちは、こんなことをおこした僕らに何がいえるのか? 著者の実体験を元にしたという物語。ギュンターのいじめに走る難民の男の子たちが背負うもの、彼らを諫める立場の大人たちが戦争にしたこと、一つの罪が、さらに大きな悪に向かいコントロールがきかなくなっていく恐怖が戦争に巻き込まれる人の姿とオーバーラップする。ほんのちょっと踏み間違えただけで、私たちはとんでもない事態に手を染めるかもしれないという恐怖を知って、戦争のことを考えたいと思う。