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私のアンネ=フランク

 

私のアンネ=フランク―直樹とゆう子の物語 (偕成社文庫)

私のアンネ=フランク―直樹とゆう子の物語 (偕成社文庫)

 

 シリーズ3作目。ゆう子は中一に直樹は大学一年になっている。母親の蕗子は、ゆう子の13歳の誕生日にアンネが13歳の時から日記をつけ始めたからと言って『アンネの日記』の本と日記帳をプレゼントする。ゆう子は大人になりたくなくて、怖いことはキライな子。本は読む気がしないが、アンネに呼びかける形で日記をつけ始める。正直言って、ゆう子のキャラクターが納得できなかった。自分の中学生時代や、うちの子の中学生時代を振り返ると大人になりたくてたまらなかったから。ちょっとゆう子の無邪気がわざとらしく感じた。蕗子は、自分とアンネが同じ年だと途中で気付き、チャンスをつかんでアウシュビッツへの旅に向かう。1978年の元号法制化など政治的な事件も背景に、右傾化への危機感が蕗子や直樹が強く語っている。だが蕗子の人気歌手がハーゲンクロイツをファッションとして使ったことに対しての激怒など、ちょっと説明を加えないとわかりにくく感じる。松谷氏の意図は、無邪気なゆう子が、その無知を卒業する(この本の最後でアンネ・フランク展に行って、アンネが実在の女の子だと気付く)という流れかとも思うが、全体がゆう子ではなく蕗子で書くべきであったように思われた。児童書だから子どもを主人公にと思ったのだろうか? だが、蕗子が主人公になったら物語にはならなかったろう。旅行記エッセイ? だが少なくともその方が素直な作品になったと思う。