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ふたりのイーダ

 

ふたりのイーダ―子どもの文学傑作選

ふたりのイーダ―子どもの文学傑作選

 

直樹とゆう子の物語。母親が取材旅行に行くために夏休みの直樹は、2歳の妹ゆう子とともに、母親の実家の花浦(広島に近い?)に行く。そこで、直樹は「イナイ、イナイ、ドコニモイナイ」と言いながら道をカタカタと歩く小さないすに出会う。その直後、実家のすぐ近くに廃屋がありそこがイスの家だとわかるのだが、ゆう子はその家に入り込み、自分の家のようにふるまう。いすは、ゆう子を自分が待っていた「イーダだ」と喜ぶが、直樹はそこに謎を感じる。昔、この家にアンデルセンの「イーダの花」のおはなしが大好きで「イーダちゃん」と呼ばれていた小さな女の子がいて、いすがその子を探していることがわかる。ゆう子も「イーダ」と呼ばれているが、それは「イーだ!」と嫌がるようすだからだ。女の子はどこへ行ったのか? 近所のりつ子さんというお姉さんの助けを借りて、直樹はその謎を解いていく。原爆をテーマとした有名な作品だが、読んでみると、イメージ(小さなイスがカタカタとだれかを探す、廃屋のまわりのかいずかの生垣が、ねじれて呪いの炎のように見える)が鮮烈だが、それを受けた物語は、やや説明的に感じた.。直樹の視点で語られるが、直樹が作者に近いのではないだろうか? 意外に面白いのが母親の造形で、たぶん本人の自画像だろうが、子どもを放り出して取材に行って元気いっぱいという母親像は、いまだに少ないかもしれない。