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青銅の弓

 

 ローマに支配されたユダヤ。ダニエルは8歳でローマ人に父を殺され、母も悲しみにため死んだ。処刑された父を見たショックで、妹レアも外に出られなくなる。祖母が二人を引き取るが貧しく、残酷な鍛冶屋の親方のもとに売られるように年季に出され山に逃げた。そこには反ローマの挙兵を目指すロシュというリーダーに率いられたグループがいて、彼も加わったのだ。ある日、山で昔馴染みヨエルとマルテースという男女の双子に偶然出会う。年は下で裕福な家の子どもたちだが、意志が強い二人、とりわけ反ローマに共鳴してくれたヨエルと強く結びついていく。そんな折、イエスという男のうわさを聞く。ダニエルもイエスを見に行き、強く引き付けられるが、反ローマで立ち上がらない彼へのいらだちも感じた。祖母の死により妹レアの責任を負ったダニエルは山を降り、イエスの弟子になるために家をでた鍛冶屋のシモンの後を受けて仕事をしながらも、反ローマ組織づくりに駆け回る。何もできないと思っていたレアが、調子がよければいろいろとできることを知る驚き。リーダーと信じていたロシェが実はただの山賊ではないかという疑い。自分が巻き込んだヨエルの危機に対する良心の呵責。タイトルは聖書に出てくるダビデ王の詩、「神わが手に戦いを教えたまえば わが腕は青銅の弓をも引く」による。常にローマを激し憎み続けるダニエルだが、その憎しみは何をもたらすのか? 不当なことに対する怒りと、自分で自分の心を焼き尽くすような憎しみの違いは? 人間には引けるとは思えない青銅の弓をひくというのはどういうことなのか? 憎しみや怒りの応酬が絶えない現代に読む価値が大きい本であると思う。