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チャンス はてしない戦争をのがれて

 

『よあけ』などで知られる絵本作家の自伝。ポーランドに生まれたウリは、聖書に出てくる芸術家にちなんで名付けられ、両親の願い通り絵を描くのが大好きな男の子に育つ。だが、ヒトラー進攻によりロシアに逃れる。ロシアのパスポートを取ろうとしたが、ウリという名が、反ソヴィエトの詩人と同名だったために取得できず、奥地に行かされ、戦争下での飢えに苦しむ暮らしが続く。(絵本『おとうさんの地図』は、この時期のエピソード)。だが、結果的に国境から遠い地域だったので生き延びることができた。戦争が終わり、ポーランドに戻るが、居場所はなくなっていた。ドイツ、フランス、イスラエルと移住し24歳でアメリカに移住するまでの子ども時代を描いている。大切な人たちの死、自分ではどうにもならない運命に引きずり回される辛さ、だが、その中でも一家は懸命に命をつないでいく。悲惨な物語であるのに、好奇心に満ちた目で、まわりを見つめているウリの視点は、その中にも楽しみや友情、さまざまな不思議を発見し、希望を感じさせてくれる。ちなみに、一番ショックだったのは、ホロコーストを生き延びたユダヤ人が、ヨーロッパで冷遇されるところ。イスラエルパレスチナへの態度はひどいと思っていたが、こんな思いをしていたのなら、そうなるのも無理はないのかも。戦争に追われて逃げる、主人公のような子がいなくなりますように。