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瓶に入れた手紙

 

イスラエルエルサレムに暮らすタルは17歳。ある日、ガザ地区の兵役に就く兄に、手紙を入れた瓶を託す。パレスチナの知らない少女と、憎しみ以外の言葉で語り合いたいという願いをこめて。

ところが、瓶を拾ったのは20歳の”ガザマン”で、その返事は悪態やからかいの言葉で埋め尽くされていた。でもタルはあきらめずにメールを書き、語りかけ続ける。それは、タル自身の抱えきれない不安や恐怖を、頭の中から追い出すためでもあったから。

やがて心を開き始めた”ガサマン”は、ナイームという名であることを明かす。そんな矢先、エルサレムでまた自爆テロがあり、その現場を目撃したタルは、ショック状態に陥ってしまう。

以前ナイームが、「疲れた」と書いてきた気持ちを初めて知ったタル。一方、彼女を心配するナイームには、国際的なカウンセラー・チームのメンバーとの出会いがあり、”幸せ”を感じられる気力を取り戻しつつあった。

ある日、「君への最後の手紙だ」と切り出したナイームのメールに書かれた決意とは。

イスラエルには男女ともに兵役の義務があり(作者自身も従事した)、タルも18歳になると兵役に就く。その後2人は対面を果たしたのか、そもそもナイームの夢は叶ったのか、読者の想像にゆだねられる。

書くこと、考えることをやめない、あきらめない2人の姿は、希望でもあり、また本文の訳注や関連年表に「圧倒的」と表現されるイスラエルの「武力」や「勝利」という文字は、絶望が続くようにも思えました。 (は)