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アーサー王ここに眠る

 

アーサー王ここに眠る (創元ブックランド)

アーサー王ここに眠る (創元ブックランド)

 

 概要

紀元500年頃のイギリス。ローマは遙か昔に撤退し、サクソン人が侵入する中、ブリトン人の小王国が群雄割拠していた。そんな戦さのただ中で、みなしごの奴隷だったグウィナは偶然ある男に拾われ、彼の手伝いをすることになる。彼の名ははミルディン。アーサー殿のそばに仕える吟遊詩人で、魔術師で、参謀でもある。彼の振り付けでグウィナが果たした役目は、湖の精がアーサーに名剣エクスカリバーを授けたという物語となって、語り伝えられていくようになる。グウィナは男装してミルディンの従者になり、アーサー殿の宮廷で様々な事を学ぶが、もはや男装が持ちこたえられなくなると、今度はアーサー殿の奥方、グウェニファーの侍女として、彼女の身の回りに仕え、やがてのちに、ランスロットとギネヴィアの道ならぬ恋として語られる物語に関わっていくことになる。

 

感想

アーサー王伝説を下敷きに、実際はどんなことだったのか、グウィナの目を通して、舞台裏をのぞく、一種の歴史物語。マーリンの原型となったミルディンは、物語という「魔法」を使って、アーサーを、ただの田舎の山賊から、ブリテンを救う英雄にと変えていった。同時に、もちろん、それは物語にすぎなかったわけだけれど。

いわゆる超常現象が出てくる事はないので、ファンタジーということはできないだろう。しかし、「物語」こそが魔法なのだった。

「物語は残っていきます。ほかの何が残らなくても。物語は闇を照らす光になって、闇が続く限り燃え続け、闇をつらぬきとして朝をもたらすでしょう。」

ちょっと少女趣味の匂いがあって、たとえばサトクリフの男くささとは違う甘さが残る。造本・挿絵もそれを増幅しているので、気に入らない人もいるだろう。でも、さすがカーネギー賞。楽しく読めました。