児童書評価のページ

新刊・古典とりまぜて児童書を評価します

熊とにんげん

 

熊とにんげん (児童書)

熊とにんげん (児童書)

 

 芸を披露しながら旅しているおじさんと熊がいた。おじさんは7つのまりでお手玉芸をし、熊はおじさんの鳴らす手回しオルガンで踊る。おじさんは、熊のことを鎖でつながず、夜寝る前にはおはなしをしたり角笛に合わせて歌って聴かせたりしてやる。するとそのメロディはこだまとなり、吹きやめた後も森の中に響きつづける。
タイトルの熊と人間は、旅芸人のおじさんと熊のことかと思ったら、おじさんは物語の中盤で死んでしまう。ひとりになった熊は森に帰るがおじさんのことを忘れられない。ある時森で、道に迷った男の子と仲良くなる。男の子はおじさんと同じように熊におはなしをしてくれ、首に下げていたおじさんの形見の角笛を鳴らす。すると流れ出したのは熊おじさんのメロディ。そして、熊おじさんと熊の姿を見なくなった今でも、その美しいメロディが聴こえることがある。
おじさんから男の子への輪廻というのか、だから熊とおじさんではなく「熊とにんげん」。人も動物も形はなくなって音楽だけが奏で続けられる物悲しい余韻が残る。 (は)