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レクトロ物語

 

レクトロ物語 (福音館文庫 物語)

レクトロ物語 (福音館文庫 物語)

 

 夢心地と現実の社会風刺とを行ったり来たりする不思議な作品。「ロイドめがねの小男」レクトロも、おじさんなのか少年なのかどちらにも見える姿をしている。
レクトロは、様々な職業に憧れてやってみては、仕事中にうっとりと夢にふけってしまったり現実にそぐわなかったりで辞めさせられることの繰り返し。道路掃除夫、駅長代理、飛行船の宣伝ビラ撒布係、電話線の監視係など、やりたいと思うとなぜかうまい具合に採用はされるのだが。
私が印象深かったのは、亡くなったおばの家庭菜園を引き継いだときの話。雨の降らない日が続き、菜園組合の会員たちのために、水場から樽で水を運んだり雲にロケットを打ちこんでみたり、レクトロの働きでなんとか夏のガーデンパーティーまでこぎつける。組合は家庭菜園運動の功績を大臣から表彰されるのだが、同じころ別の会議では菜園地が都市開発されると決定していたというせつないラスト。本書の最後も、電気工の知識があるレクトロが自分のささやかな発明に酔いしれる中、小さなキクイムシの開けた穴による事故であっけなく昇天してしまう。でも、その瞬間レクトロはとても幸せな気分に満たされていた。こんな風に夢と現実を合わせもって、柔らかく強く生きられたらと思わせられる。    (は)